| 痴態(銀桂) 見ろお前のいぬ間に一人遊びが上手になってと酒の臭いを滲ませて吐く息の艶かしく繰り広げられた狂態に狂人めと嘲弄もしくは馬鹿めと哀切に打ち沈む立場にもなくまた殊勝さもなく欲情して二人遊びに転じる身勝手。 罵倒(高杉) 左目の機能は完全停止のはずでもなんでか闇闇闇の真っ暗闇だけ未だその目に映される。払っても祓っても足元縋りつく奈落の底の黒の色、嗚呼ァア、くそだらァと訳も無し罵倒。足取り重い。闇の底に溶けて加わり圧し掛かり縋りつく思い出の女々しさ罵ってそれでも後生大事に抱えて道を歩くだけ、しかできやしねぇ、所詮は俺も半端者の人非人で。嗚呼嗚呼くそだらァくそだらァ。 陵辱(土桂) 転々と塒を替えて誰にも悟られぬようにひそやかに佇んでいるつもりでも土方はいずれから探り当てるのか狗の鼻の鋭いこと必ず桂の居所を突き止めては押し倒して情交を強いる。抵抗はしない。できぬ。若さが、肉体のその絶頂期に向かい駆け抜けてゆく最中の力強さの前に盛りを過ぎた男のなんと非力な。日光にろくろくあたらぬ青白い表皮の萎びた肉体はただただ脆弱なばかりだった。初回の行いにそれは重々承知させられたことである。「無駄は止せよ」男の臭いと欲情の色を強く滲ませて耳に吹き込まれた言葉はどこまでも残酷。大人しくしてりゃあ、善くしてやる。つまらない常套句で顔を歪ませた男は、ゼッ、ゼッ、ゼッ。必死の抗いに息を荒げるのを嘲笑うように草叢の小虫を踏み潰すたやすさで虚仮猿の英雄に口付けた。 まぼろし(土桂) 長い髪。青白い肌が目の前を舞って過ぎてゆく。しまったまた好機を逃した斬り損ねる逃げられる。何度繰り返しても私は失敗からなにものも学ばない。私の腕は彼を抱けたためしもなく抱くまではとて斬ることもできず、ただ妄執だけを積もり積もらせて我が身を慰める夜を過ごしてばかり。頭の中で桂小太郎は思い通りのはしたなさで夜な夜な私と交わい続ける。私を撫で、さすり、舐めてしゃぶって腹の上に跨ったかと思えば、私に組み敷かれて受け入れるばかりのはかなさで腰を揺らめかせたりする。長い交合に私が疲れ果てれば、一人、自分の指、刀の柄などを私の代わりにしては一人遊びの淫らさで私の目を楽しませた。淫らな饗宴。幻の中、私は彼に囚われてもうここから抜け出せない。沖田総悟がそんな私の背中を嘲笑って泣く。「臆病者め、アンタはおかしい。」甘んじるしか手もなく術もなく、私はただ桂小太郎の桂小太郎の幻だけを抱いたまま今日も孤房に我を慰める。背後に沖田は絶望している。 沖→土→桂→銀 近々の土方の夜歩く癖を近藤は不思議と首を傾げていたがもちろん沖田にありゃあ夜這いですよと耳打ちする無粋も無い。おい総悟、お前トシの行く先知らねえかと訊かれりゃ、さあてどこでしょうねェさっぱり見当つきません、と言ってやるくらいの親切に払われる報酬の代価は頂戴しているけれどもしかし、トシめ女ができたかなあ羨ましいぜ、という人の好い人にハハハと一笑、近藤さん実はオレァ知ってるんだよ、土方さんに女なんてなァ馬鹿馬鹿しい、奴は今とんでもねえ男に夢中なんでさ男も男のこれがとんだ爆弾野郎で、え、名前かい、名前はあれだよ天下名だたるあの桂小太郎ですよアハハ可笑しいだろアハハハハ、と一息にぶちまけて気狂うような大笑いしたい衝動に唇がふるふると震えるくらいの愛嬌は見逃してくれたっていいだろう。 沖田がそれを知ったのは夏の日虫の音鳴り響く頃で、夜半の非番に当たる時こそりと出て行く土方の後を追っていったのが運の尽き。暗いくらい闇のなかに紛れて彼の入り込んだ静かな住まいに、暑さに開け放つ戸を都合よしとて中を覗き見れば映ったのは絡む八本の腕と脚と二つの胴で。白い寝座の上に流れた黒髪の質の美しいのをどんな女かとよくよく目を凝らして見りゃとんでもねえ。女なんて大人しい生きモンじゃねえやありゃあ。 突付けば飛び散る火花に火傷する爆弾。 アンタいい加減そんな危ねェ橋渡るのやめたらどうだィ、首筋に舌を這わせながら囁けば下に広がる肌が細波だって沖田を含む部分も僅かに締める力を強くする。てめぇまたその話か、と土方。しつけえんだよ手前はさっさと終わっちまえ、とわざと締め付けられる感覚に思わず「ウっ」と呻いて雫を零してしまう自分は経験浅い子どもだなんて言外に思い知らされたようでムカつく。仕返しにひどく奥を穿つ。仰け反る首筋に赤く残したのはメッセージ。この人俺に抱かれたんですよ大人のくせに。大人は子どもに「セックスは好きな人としかしちゃいけません」って言うもんじゃなかったっけ。この人俺のこと好きでもなかったんじゃなかったっけ。矛盾するばかりだ。 土方を抱くようになって気が付いたのだけども、桂を抱いてきた彼の身体は、とても綺麗なのだった。 なんだぃ土方さん、アンタあんなに通いつめてもまだ背中に掻き傷一つ付けられねえでさあ「うるせえな」知ってますかィ桂の奴はアンタのことなんかきっと好きじゃねえんだ分かってんだろ「黙れ、」そんなでもアンタ桂がいいですかそんなでも虚しくなんねぇんですか哀しくなんねぇんですかと言ったら「うるせぇってんだろ!」ボカリと一発頭張られてテメェみたいな餓鬼にゃあ分からねえなんて抜かすからカッとなって押し倒して後はなし崩し。無理矢理みたいに犯して腰振っての眠りの後に朝を迎えりゃ互いに知らぬ存ぜぬ素知らぬ顔して仕事に励む沖田の身体は何の跡も残されなくて綺麗なまんまの同じ穴の狢で。 それでも、土方が、いい、なんて健気……な馬鹿。 チクショウ報われねえ、俺もアンタも誰も彼も。 透明人間(沖土桂) 確かにそこにいるはずなのに姿も見えず触れもできず、というものなぁに?と聞かれて沖田総悟が答えるのはお化けでもなく幽霊でもなく桂小太郎。あるいはお化けであり幽霊であるところの桂小太郎。なんたってアイツは人間の魂をモグモググシャグシャパクリと旺盛な食欲で平らげてしまうので後に残されるのはただの屍骸になって空っぽになった人間の喩えとして土方十四郎という名(だったはず)の男は血の気が失せてすっかり青白くなってしまいもはや腑抜けに成り下がった。今欲しいものは煙草?マヨネーズ?なんかじゃなくって「桂小太郎」の言葉ばかりが上下の唇を掻き分けて吐き出される先にいるざまを見やがれと嘲笑罵倒する沖田の心の裏はだけど本当は駄々っ子みたいに地団駄踏んで悔しがったり怒り狂ったりして「畜生」殺してやる殺してやるころしてやるの言葉を弾丸に毎日バズーカを携えて桂小太郎との鬼ごっこ。あの男の心を返せ返せ俺に返せと訴え続けて(でも考えてみればあの男の心が俺のものであったことなんてただの一度もなかった)なんてことは切なくなるから思い出さないまま鬼ごっこ。 |