温い夜だ。守宮が窓を這っていた。歩を進めるたびに右へ左へとよじれる、その腹の白さがいとおしい。硝子越しの指先で撫ぜたなら、硬直するように生きものは動きを止めて、わたしのあくじゃれを窺っている。次に何を仕掛けよう。わたしの爪先は白い。白すぎて見失いそうだ、と言った少年の顔は影になっていたので見極められなかった。恐怖か諦観か、どんな表情をしていたのかあの時わたしは見ておくべきだったと今になっても遅すぎる。白煙の空の下で二人遊んだ、今髪を撫でる銀時の指先があの頃とは違っていることにとっくに気が付いていた。砂糖漬けにされている指先は甘いばかりで胸焼けする。わたしの愛した鉄錆くささがここにない。見失ったのはわたしの方だ。あの子が消えて銀時ばかりがここに残っているので、それが寂しい、死ぬほど寂しい、と言ったならこの男は同情してくれるのかそれとも哂うのか「ふーん」と息を吐くのだろうか、何事もないふうに、白濁色の目を穏やかに、わたしの皮膚のどこから貪ればいいのかを見定めながら。か細さを欠落させた腕で抱え込まれ、窓から引き離された指先に守宮は動きを取り戻す。唇の力で皮膚を噛む。噛まれる快楽。貪られ続けたわたしの肉体が、愛していたものはこれだったのだと錯覚しそうになっている。腹の上に接吻されて、わたしは逃亡するべきかを迷う。「動け!」迷っている間にころされる!とあの子は昔忠告してくれたのだが。今、ころされる。食い散らかされてゆく。白い鬼の子を愛していた幼いわたしはそうしてやがて失われ、銀時と桂小太郎だけがここに取り残されるのだ。そこに血の色はない。ただ白く腹の上と中に撒き散らされる体液のみが我々を繋ぎとめる。消えいく子供の横顔に、嘆くひとが見当たらない。見渡す視界に守宮もいない。窓の外に暗闇だけが残されている。