| 生暖かく肌と空間との境も曖昧に呼吸する春の、花が咲いては蟲を呼ぶ春の、現実から放たれたように感覚するのはいつもこの季節だったことに思い至った時に思い出す刀の感触は遠い。細長い腕の先に垂れ流したにび色の振り下ろす先と意思とを見失ったので、いつかどこかでとり落としてしまった。おそらくは棄て去られてしまった。忘れかけている!闘争の術も目的も持たないのなら浮遊する塵芥のように虚ろに徘徊するばかりです。寂しい。思い出さなくてもいいよ、と白い男は言う。思い出さないままでも生きてはいけるんだ……、と囁き続ける誘惑のおぞましさが蛇のように付きまとい付きまとわれ末には加担した。世間は慣性と惰性で流れていくのだから塞き止めようとは途方も無いよねえ。棲家を寝所に定めつつ舐めあいながら果て続けることにしようと共犯者の笑顔で腕は伸び腕を伸ばす。桜の根元には「死体が埋まってるんだって」みんなが言ってるよ、と教えてくれたのは幼いころの一体誰だったか。血を吸って薄紅が咲くと言うのなら俺は俺たちを桜の根元に埋めてみたい。呪われて流す血の赤も忘れ、今ただただ互いの肉体を玩んでは吐き出すばかりの、きっと白い花が咲くでしょう。 |