壱))骨の宴
干からびて成るしゃれこうべ、その白さにきっと似ている。瑞々しさのとうに失った白髪がパタパタと風にあおられて踊った。腕の先にぶら下がるにび色の重さが耐え難い。あー、あとどのくらい生きものを斬って俺は自由になるだろう。足元の白骨、同じ白さでここにおいでと手招きしてる。蠱惑。

弐))世のなかくるってる
火事が出たという。め組の怒声、サイレンの音が夜の静寂を貫いて鼓膜に刺さる。
泣き声、叫び声が交じり合って騒音になって。目をやる寝所の窓が赤く染まり、炎の形がくっきりと映し出されている。燃えているのは近所らしい。どやどやと野次馬なのか移り火を心配する周囲の者か、閉じきった窓の向こう、疾走する気配と足音。戦争の頃を思い出した。たくさん焼かれてたくさん焼いた。そのたびに人は死んだ。少なくはない人影が、真っ赤な炎の中からおいでおいでをするように手を振り上げていた。ふらふらと招かれるようにその中に入ろうとしたら温かい腕がそれを押し留めて泣いた。行くな。桂。俺を置いていくな。あの腕の熱を失ってもう何年にもなるのに、色あせることなく未だ俺を苦しめる。置いていかれたのは俺の方だった。押し留める腕を失って、こんなところまでふらふらと彷徨い歩いて来てしまった。胸が苦しい。眠らなければならない。きつく目を閉じても、薄い瞼の肉は容易に光を受け入れて、赤く視界を染め上げる。落ち着かず、眠れない。盲目に、なれるものなら。

参))馘と夜食
くちゃくちゃと咀嚼音を響かせてその口元は蠢く。何喰ってんの、訊ねても返ってくるのは曖昧な微笑ばかりで。暗がりにその手が持っているのを赤い果実と知っていたけれど、銀時、にっこりと笑ったその歯茎にまつわりつく赤が、どうして俺の肉だと思わせたのだろう。願望。そうだとするならそれはどちらの。

四))ああ、おれのために世界はあった
新聞の片隅、あるいはブラウン管から無差別に垂れ流される情報の一コマとして命は取りこぼされていく。仕掛けられた爆弾が、閃光を散らして血を流した。あの日、破壊できぬものはないと信じていた俺たちの亡霊ばかりが画面いっぱいに広がってはすぐに消えた。「アレ、お前の所為?」問いかける先の青白い顔が否定も肯定もしない。生きているものが埋め尽くす行間に、ぽつんと生まれた余白のように死の淵に佇む。俺はそれを救い上げたい。昔、同じ幻想を瞼の裏に隠し持っていた頃のように、お互いの伸ばす腕の中で呼吸するのを夢見ているんだよ。傲慢かな、と言ったら少し微笑んで頷く。その首もとの、あーあ。やりきれぬ、うつくしさ。

伍))最もxxxだという事を知っている
夏草の踏みしめて成る汗の一滴。その先の土。我々を構成するものが、ただ憎悪と怨嗟と殺意だけではないことに気付かされる交尾。早い呼吸音と鼓動のあわいに、呪縛のように囁かれ、かつまた囁き続けた言葉が、俺たちを苦しめていたな。身を切る刃でもなく、骨を砕く鈍器でもなく、貫いてくる銃の鋭さも残酷には程遠い。屍踊る屠殺場、ましてその屠殺者に向ける言葉の一つだけが心臓を抉ろうとは、無知だったあの頃の誰も知らなかった。握り合う手の汗ばむ、舐め合わせる舌の滑らかさ。振り仰ぐ空の青さを貫く白煙。遠く地表に陽炎が立っていた。あいしているとの言葉一つ。

六))祝福もされないが
冷たい陶器の予感が、ぬるく、やわらかく、頬の上で破壊された。この男は生きている。触れる指先で知覚する。侵略する舌先が、鋭い歯に甘く噛まれて痺れた。股間の熱が全身へと毒のように巡り、やがて二人の体を焼き尽くそうとする。その熱に殺されたい。桂。呼ぶ先の眼窩で欲望は肯定されている。戦場の土の上、そこで交わった。血と精液と唾液と涙とで。湿った大地の上にも雨は降り草は茂り鳥は鳴き慈悲はある。失うことを厭う体温を腕に抱き腕に抱かれ、獣になって三千大千世界を駆け巡る。南無阿弥陀仏。明日もこうして生きていたい。