| 決意に握る掬い網を水に差し入れては水圧に負けて破れかぶれ。次々に取り替えて運良く獲物を追い詰めども取り逃がすことを繰り返しては落胆に歯噛みする幾度目か、終には網を投げ捨てて約定破り。若く熱い掌にたおやかな金魚を捕らえて莞爾と笑うその幾刻後に愛玩し疲れた男は飽いて魚を投げ出すだろう。未練の欠片も残さずに投げ出すだろう。池か川原か泥水か、放してやるのが情けとて偽善に嘯いては残酷に手を離す男の熱さを逃れたそれはしかしもはや人の支配を離れて生きるには脆く命を形作りすぎた。人の手に慣れた生き物には過酷過ぎる自然のうちにそれを投げ棄てては元気に生きろよと謂う男の優しさはあの美しい魚を殺すのだ。確信に近い予想に慄然とする桂の、その自らよりも数歩ばかりを遅れて歩く情人を振り向いてはやはり「この金魚どっかで放流してやるか」と笑いかける土方のその言葉に密やかに戦慄して桂は二人の行く末を見る。熱情のままに腕に抱いて捕えて情を餌に慣らしては愛撫した末にやがては倦んで土方は桂を棄てる。未練の欠片も残さずに桂を棄てる。流れる人の波に自由にしてやると独りよがりに優しく彼は手を離しても桂はもはや慣れすぎた。狭く熱い腕の中に泳いでは与えられる情を餌として生き慣れた。土方に放たれる桂は広すぎる水の中に泳ぎ疲れては情に飢えてやがて死んで逝くのだろう。振り向かぬ土方を想って死んで逝くのだろう。冷ややかな行く末に怯えて脚の動きを止める情人の遅れに焦れてその手を搦め捕る土方の胸に抱かれる。どうしたと問われても何も云えない。何も云わぬままただ今は思考を止めて互いの腕の中睦み合うことに専念する桂はしかし自分が金魚に成り下がったことを自覚する。それは夏祭りの夜のこと。 |