| 夏の終わりにさよならを言い、煙草の細い白の煙が部屋の中をたゆたって、やがて空気の中に紛れて消えたのを私はぼんやりと目の中に納めていたのだった。男の、私よりも幾ばくか大きな手が私の首に掛けられることは終ぞなく、肌の上を掠めたものは愛撫だけであった。
冷蔵庫の中に身に憶えのないマヨネーズのチューブが何本か置かれ、そしてまた私が摂取した記憶のないままにそのうちの何本かが消費されていった。ちゃぶ台の上に並べたあの男の食事には、生成り色したそれらがいつもこんもりと盛られていたことを覚えている。使われる宛てもないマヨネーズの一本が未だ冷蔵庫の一角を占め、一日一日とその消費期限へ向け、朽ち果てている最中。キャップの赤は開かれまい。 煙草の真新しい一本が、万年床の端に転がっていたのは、私の気まぐれに消費された。十年ぶりほどにのんだ味は格別のものでもなく、夏の或る日のように、ひと時部屋を白く汚してすぐに消えて果てた。三ヶ月と数日振りになる。 今日は雨が降ると、通りのほうで声が聞こえた。身を横たえる畳の感触が少しばかりずつ湿気を帯びて、降雨の予感を与えている。 夏の終わりにさよならを言った。視界の隅に小蝿が飛んでいる。夕刻の頃に雨は降るだろう。私が待っているものは、もう何も無いはずである。朽ち果てている最中。 |