| 沖田総悟は奇妙なネコを飼っている。チャイナ服に身を包んだそのネコは神楽と名乗り毎日米びついっぱいの飯をかっこむので屯所のエンゲル係数は上がりっぱなし、その上やたらと怪力なので様々の備品が廃品の憂き目に遭う泣きを見た。それでもこの神楽はなかなかに見目愛くるしく総悟とじゃれつく姿はよくよく心和ませるものなので真選組の中では未だ捨てろという声を聞かない。優しい視線の平和な周囲に囲まれて喧嘩の回数は多いながらも結構幸せな一人と一匹なのでした。 坂田銀時の自宅兼事務所の居間にある机の引き出しがある日突然タイムマシンへと変貌する。坂田銀時はその珍事によるそこに隠し蓄えていたチョコレイトの消失を嘆き怒ってその引き出しをガムテープで封印した。だって過去にも未来にも別に興味はないからね。戻りたい過去は俺に無く未来はいつだって未知だからこそ美しい! 土方十四郎がある朝布団からムクリと起き上がると突然奇妙な眩暈に襲われた。疲れがたまっているのかもしれない、近々休みを取ろうと決めてそれからはいつもと変わりなく仕事に励むことにする。午前に書類整理をちゃっちゃっちゃっ、昼は大量のマヨネーズ丼をちゃっちゃっちゃっと済ませて午後は歌舞伎町あたりをうろうろと警邏する。そういえば最近あの長い髪に逢ってない。人目を忍んで逢瀬することも最近は互いに都合が悪くて御無沙汰だ、どれ明日にでも休みをとって逢いに行こうと勝手に決めて勝手に心を浮き立たせてふと傍らの総悟に声を掛けてみる。「おい最近攘夷派の野郎を見ねえな」「は?」「いや桂のことだよ」「カツラって土方さん、あんた…」「古い冗談はそれまでにしろ。ヅラのことじゃねえ、桂のことだ」「冗談はそれまでにしろったってアンタこそそれまでにしろィ。誰だよ桂って」「桂小太郎だよ」そこで総悟は足をとめてまじまじと土方を見た。「土方さん、アンタ寝ぼけてんのかさっきから。桂小太郎なんて人間俺はしらねえよ」そんな馬鹿な。土方は総悟の奴、真に迫った演技をしやがってと思う。屯所に帰って念のために桂の手配書を探してみる。無い。そんな馬鹿な。側にいた近藤に縋るように聞いてみる。「近藤さん、桂小太郎って知ってるか」近藤が不思議そうな顔をする。「誰だい、そりゃ」そんな馬鹿な。土方十四郎は桂小太郎の存在しない世界に紛れ込んだ。土方十四郎はそこで長い人生を生きるうちにゆっくりと桂小太郎に関する様々のことを忘れゆく。白い生き物を飼っていたこと、髪が長かったこと、指の華奢だったこと、繋げあった体が気持ちよかったこと、桂小太郎が心にもたらした震え。全て忘れる。たまに夢をみる。長い髪をした見知らぬ男が寂しそうに何か呟く。「俺たちは間違った。間違いは正されるべきだった。そして正された」さようならいとしいひと!土方十四郎はその夢を見る度に涙と夢精で布団を汚して沖田総悟に笑われる。 |