| 犬が私の家に迷い込み、いつしか住み着いて、私と交わって果てるようになった。迷惑な話だ。邪険に追い払おうともしたのだが、吼えては噛み付く牙の痛みに疲れ果ててそのうち諦めた。ほだされたのかもしれない。抵抗さえしなければ滅多に吼えることもない、犬は私の側で静かになる。撫でると嬉しそうに息を吐く。 日常。犬は食べることにも遊ぶことにもさほどの執着はないらしく、日中は家を出てどこかを彷徨い歩き、日が暮れると私のところへやってきて寝そべる、あるいは私の体に執拗に纏わりついて匂いを嗅ぐ、交わる。淡々と日々それだけを繰り返していた。犬の気に入ったらしい、鼻先が私の体の隅から隅までを嗅ぐ行為、は、私を困惑させる。自分の匂いなんて自分にだってよく分からない、それなのに犬なんかに見透かされてしまって。蹂躙されている、そんな暴力的なイメージ。そのために、私は匂いを嗅ぐための彼の呼気が私の肌を掠めると否応なく高揚した。その時の私からはひどく淫猥な臭気が漂うのだと思う。嗅いだ途端に犬は、ウウ、と唸り、私の体を押し倒すのでそれが分かる。その時の匂いはきっと桃の腐敗臭なのだ、と私は勝手に想像する。嗅ぐことから交尾へと目的を変えた犬の、犬歯のするどいのが私の首筋を掠めた時、鼓動を刻む胸の頂に吸いつく時、私は自分の皮膚の頼りなさと、捕食される者の恐怖と快楽が繋がりあって存在しているのだということに気が付く。気持ちがいい、と呟くと嬉しそうにごわごわとした体毛が擦り付けられた。 犬には名前がある。滅多にその名を呼ぶことはない。御褒美のように時折だけ、口にすることにしている。今、閨の中で器用に私の身体を舐め清める熱い舌先を感じる。爪先の五指を、その間まで丁寧にしゃぶって犬は次の行動に移るための許しが下りるのを待っている。私を窺うその眼が挑むようでもあり、給餌を待つように従順でもあり、私にはこの獣がいじらしくてたまらない。あの時もきっとこんな眼をしていた。初めての犬との交尾を思い出す。這う舌と犬歯、生ぬるい呼気、剛毛ともいえる毛の感触がもたらす微妙な快楽に眠気にも似た心地で私は溺れたものだ。波になって、獣は上手に一人と一匹の交合した肉体を揺らめかせた。その動きがぞっとするほど優しくて、その時から私はこっそりとこの犬を愛することに決めたのだ。いとしい仔。いいよ、おいで。足を開いてさしまねく。「ひじかた」と呼んでやれば暗がりの中に、ニィ、と笑う白い牙の群れが浮かぶ。 |